裁縫師 小池昌代 ~Tailor~ Masayo Koike

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裁縫師、女神、空港、左腕、野ばら の五編からなる短編集である。

 

裁縫師

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作品の紹介

裁縫師

『父も母も、すでにこの世にいない。彼らが生きているころは、両親の思い出話など繰り言ばかりで面白くないと、耳から耳へ流して聞いていたのに、いまとなってはあれもこれも、聞いておけばよかったと悔やむことばかりである。』

この思いは、わたしの思いに近いかも。同じ思いをしないように、両親の話は聞いて記録しておこうかと考える。

九歳の娘が、大人の階段を上った。

 

女神

主人公は男で、地味な花が好きだ。
ある日、偶然電車で止まった「かぜだまり」という駅。

いつの間にか、この駅に何度も足を運び、散策をするようになった。

風邪を引いて病院へ行くと、その先生は占いもする。
「君は気が弱い。女には注意しなさい。」と言われる。

薬局へ行くと、丁寧に薬の説明をしてくれた顔の見えない女性のことが気になるようになった。
あるとき、手首を捻挫して、薬局へ行くと、やはりその女性がいて、薬の説明のあとに、「今日は神社で、鶴の恩返しを踏まえた宵祭りがあるから、いらしてください。」と言われてつい浮かれて。。。

空港

洋子は、空港で叔父を待つ。空港の人々を観察してこう感じている。『旅人たちは疲れてはいるが、長い空間を横切ってきたせいで、独特の光を発する瞳を持っており、移動する体は、日常から少し浮き上がって、野性的な動物の匂いを発散していた。』

そう言われれば、そんな気もする。そこまで人を凝視したことは少ないので、私の想像に過ぎない。

ようやく遅れていた飛行機が到着したが、ロビーに出てくるまでには、さらに一時間ほどかかりそうだと気付いたとき、洋子は昔の待ち合わせのことを思い出す。

『まだ携帯などが、なかったころのこと。ひとは、ただ、来ないひとを、いまかいまかと待つしかなかった。遅れている理由はわからなかったし、もしかしたら自分が時間や場所を間違えているのかもしれなかった。』

それにしても、小説の結末には驚く。

 

左腕

この物語は、恵子が乗ったタクシーが、川野が運転するベンツと事故を起こすところから始まる。衝突する瞬間の描写が面白い。一行に一文字しか書いてない。『あ、ぶ、つ、か、る。』

人間が危機に陥ったときに発揮される、物凄い集中力により記憶がスローモーションになる感じが、うまく表現されている。

この断片的な視点が、最後の方で、重要な意味を持って来るが、ここでは、まだ気付くはずもない。

動物病院の下山先生が最後に言う。

『現実ってもんは、一枚じゃないんよ。同時にいくつもの層が重なっているんよ。』

恵子が見たいくつもの夢は、どれが現実で、どれが夢なのかと思っていると、最後にすごい現実を突きつけられたのである。

 

野ばら

これは、一家離散の小説であろうか。私は最後には、美知子は死ぬのかなと予感がしてページを勢いよくめくった。

『美和子はきょうも、鋼鉄のように自由だ。』

ん? わたしの理解力が足りない。

さて、全体的に思い返すと、こういう人生もあるのかなと思える内容で、わたしもそのような体験をしているのではないかと考えてしまうのである。

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