人工知能に小説は書けるか?ポロック生命体 瀬名秀明 新潮社

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はじめに

「人工知能に小説は書けるか?」というフレーズで始まると、次のようなことを考えてしまう。

2024年の今なら、ChatGPTを知った我々は、ある程度条件を提示してやれば、書けてしまうよ、と思うかもしれないが、この書籍が世に出た2020年にはChatGPTはまだ無かったと思うから、この著者は今の状況を予言したのか、と。

いやいや、似たようなものは、遠い昔からあったのかも知れない、と思い直して先を読む。

 

4.ポロック生命体


『あの日は立冬を過ぎたばかりの、良く晴れた土曜だった。』


<登場人物>

石崎剛史 –   石崎博史    – 水戸絵里(博史の教え子、研究者)
光谷一郎 –                     – 今日子(絵里の友人、出版業界)

石崎剛史
:作家、ペンネームは上田猛故人

石崎博史
:元研究者、AIシステム(ポロック生命体)の開発者でCEO

光谷一郎
:画家、上田猛の本の装丁、故人

柾目(まさめ)
:作家、石崎博史のAI開発に影響を与えた


ストーリーは、研究者の水戸絵里が、友人の今日子から、かつての先生である石崎博史が今日子の祖父光谷一郎の画風をAIに学習させて、それを広告会社に売って、何千万円も稼いでいるという相談を受けたが、その石崎先生から電話が掛かってきた、という流れで始まる。(作家の上田猛こと石崎剛史と光谷一郎は、作家と本の装丁者として長年コンビを組む仲であったが、今は共に故人である。)

いまや漫画家の手塚治虫さんの漫画をAIで創作させたり、亡くなった歌手を画像と音声で蘇らせたりと、なんでもありの感じの世の中になってきている。。。

過去の画家が辿り着けなかった高みに人工知能が行けるのなら、それは誰の模倣でもない、創造的な著作物だといえるのではないかな。』

著作権との戦いが始まる、と思った。

 


今日子は遺族感情からか、石崎博史のことをメディアにおけるテロリストと友人の絵里に言うが、絵里はAI倫理研究会の末席に座る立場でもあり、恩師である石崎博史が言う「AIは光谷一郎を越えているから問題ない」という主張も分かる気がしている。

 

作家にはピークがあって、そして必ず衰退するという。

AIが創ったものは、著作者人格権が無いから模倣し放題である。

 

この小説が提起した数年前(ChatGPTが登場する前)の著作権の課題は、現在の2024年では、どのようになっているのだろうか。

『AIに創作が可能ならば、もちろん評論活動も可能だろう。・・・ある出版社は「AI絶賛」と帯にうたい・・・』とある。

読書記録ブログもAIが書くようになるのかも知れない。

何が何だかよく分からなくなってきた。
P207あたりからの物語をどう理解したらいいのか。
水戸絵里が夢の中で、AIのある未来の姿を描いてみせた。
石崎博史は、罪深いAIを作ってしまったのか。

これからのAIの将来もまだ分からないという意味で、よく分からないのかも知れない。
これからどうなっていくんだろう、というような感じで未来へ。

水戸絵里は、石崎博史がAIに書かせたとしている小説は、あなたが書いたのではないかと詰め寄るが、石崎博史はちがうと言う。
そして彼は、AIに小説を書かせることはできても、作家の息子なのに自分自身が何も生み出せていないことに悩んでいるようだった。

華やかな成功者に見えた石崎博史は、そのAIのアイデアさえも作家の柾目さんの文章からアイデアを得ていたと絵里に告白し、何も生み出していない自分と父が小説を書けなくなった原因に苦悩していたのか。

昔、編集者が石崎の父に言った言葉で、石崎の父「作家 上田猛」は書けなくなった。
自分はAIの開発に携わり、結果的に父とは対極する側に立ってしまったことも、彼を悩ませていたのだろう。

そしてAI開発者の石崎博史は、水戸絵里にある映像が入ったUSBを託しXXした。
絵里はその映像を友人の今日子と見ると。。

後日、科学番組に呼ばれた水戸絵里は、忘れ去られた作家と画家とAIについてのSTS研究者としての私見を述べた。

ところが、である。
テレビ番組はあらかじめディレクターが作成した台本に沿って内容が構成される。水戸が発言したその部分は、オンエア時にはすべてカットされていた。

このような、テレビ業界のルールを聞くにつれ、亡くなった漫画家のことが思い起こされて、悔しい思いで溢れてしまう。

 

複雑な思いで水戸絵里は柾目の言葉を聞く。
日本はサイエンスコミュニケーションの過ちで人を殺したことがある国だ。・・・かつてひとりの科学者が追い詰められて自殺した。だが、科学者や報道者は誰も自分たちが人を殺したとは思っていない。自分たちにその死の責任はないといまも信じて疑わない。

筋が違うかもしれないが、最近のSNSでの誹謗中傷という現象しか、凡人の私には思い浮かばない。

また、この小説を読んでまた多くの言葉を知ることができた。下のQ&Aに記しておこう。還暦を過ぎても勉強の日々である。

注釈:
Q.サイエンスコミュニケーションとは?
A.パブリック・コミュニケーションの一種で、非専門家に対して科学的なトピックを伝えることを指す。(Wikipediaより)

Q.STS(Science, technology and society)研究とは?
A.科学技術社会論、科学や技術が社会とどんな関係を持ってお互いに影響し合っているかを研究する横断の分野(本書P155より)

Q.ジャクソン・ポロックとは?
A.『私は変えることやイメージを壊すことを恐れない。なぜなら絵はそれ自体の生命を持っているのだから。私はそれをまっとうさせてやろうとする。』(本書P231より)
Jackson Pollock、1912年1月28日 - 1956年8月11日)は、20世紀のアメリカの画家。抽象表現主義(ニューヨーク派)の代表的な画家であり、彼の画法はアクション・ペインティングとも呼ばれた。(Wikipediaより)

表題のポロック生命体を含めて以下の4編で成り立っています。

  1. 負ける
  2. 144C
  3. きみに読む物語
  4. ポロック生命体
ポロック生命体以外の三編の紹介はこちら

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