「忘れられたその場所で、」 倉数茂 (ポプラ社)

はじめに
花巻で発見された男の凍てつく死体、発見した女子高校生が迷い込んだ「忘れられたその場所」はハンセン病と深く関わっていて、犯行動機は怨恨の線が考えられた。シングルマザー刑事の川野絵美と新米刑事の麻戸浩明はぶつかり合いながらも真相を探り出していく。

 

登場人物

推理小説ではないため、複雑な人間模様が描かれていますので、簡単に人物紹介を整理しておきます。それにしても登場人物が多いのではないでしょうか。久しぶりに二回読みました。当初不明だった点がつながったりして、二度読みも悪くないなと思いました。

第一発見者(美和)の関係者
・滴原美和 東京からの転校生 不思議
      な影を見ることがある
・滴原千秋 美和の兄 盛岡の大学生 
      美和と花巻で二人暮らし
・春奈   美和の同級生
      花巻の高校二年生

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香港警察東京分室 Hong Kong Police Force Tokyo Branch  月村良衛 2023.4.26 発行 第169回直木賞候補作

はじめに

過去に、月村良衛さんのコルトシリーズを読んだときの、主人公やその仲間たちと敵対するグループらとの戦闘シーンの迫力がものすごかった印象が残っていて、今回はその現代版とでもいうべき傑作だ。

背景には、中国という国家と、香港の民主化運動などが絡んでくる事件に、母と子の悲劇や愛情といったドラマも内包されており、読みだしたら止まらない。

内容の紹介

登場人物については本書の最初の方に掲載されていて読書の助けになります。
これを見ると、日本と香港の警察組織の構造的なものが非常によく似ていることがわかります。

物語のなかでも、バディとして捜査に当たるのは、同格の人同士で、それぞれのキャラクター設定のバランスが非常に効果的でよく、各キャラの戦闘能力にも目を射張ります。

とくに女性の水越管理官のキャラクターは素晴らしく、厳しい捜査指揮のなかにも、ユーモアやゆとりがあり、こんな上司なら付いて行くしかないと思ってしまいます。

東京に設置された特殊共助班(特助班)が、香港警察東京分室と揶揄されながらも、香港でデモを扇動し日本に逃亡したキャサリン・ユー元教授を逮捕する任務を協力して遂行する。東京では、香港警察には捜査権が無いためにチームを組んで捜査にあたる

そこに集められた警官たちは、各部署の厄介者などではなく、その実態は。。。

続きはこちら

 

 

お読みいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
香港警察チームとの腹の探り合いをしつつも、やがて強力なバディとなっていく様子も面白いし、中国政府と日本政府の人知を超えた取引に、ほんとうに法治国家などあるのだろうかと考えさせられたり、深い母の愛に感動したりと、最後まで楽しめる内容でした。

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裏切りのギフト ~資本主義に鉄槌を下す~ 穂波了

はじめに

アガサクリスティー賞受賞作家のこの小説の分類は、勿論ミステリー?
殺人犯を探すわけではなさそうだが。。。
サスペンスSFミステリーというのは、欲張りすぎだろうか?
本の感触は柔らかく、文字および行間も程よく、老眼の私にも読み易そうだったのと、ややSFっぽいカバーの挿絵が気に入ったので読んでみることにした。

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人間関係の急変と不気味な出来事 火のないところに煙は 芦沢央

  • まえがき
  • あらすじ(感想など)
    • 第一話 染み
    • 第二話 お祓いを頼む女
    • 妄言(「火のない所に煙は」を改題)
    • 助けてって言ったのに
    • 誰かの怪異
    • 最終話 禁忌
  • あとがき

まえがき

この小説家の以前に読んだ本が面白かった記憶があったので、図書館で借りたのだが、その中身が、やや苦手なホラーっぽいところがあるのに気付いたのは、第一話を読み終えるころだった。

あらすじ(感想など)

第一話 染み

神楽坂の母と呼ばれる占い師に未来を占ってもらった友人の尚子さんからの相談が始まりだった。
占い師の言った言葉に、尚子さんが付き合っていた彼がキレて、暴言まで吐いて、金も払わずに帰ってしまったところから、おかしなことになり始めた。
そう、人間関係がおかしくなるのは、ほんのちょっとしたことがきっかけなのである。
あなたもこの本に付いている「しみ」は見ない方がいい。

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スノードロップ ~いつの時代とも知れないが、そう遠くない未来の物語~ 島田雅彦

まるで、ちょっと前までの皇后さまをモデルとしたかのような物語が始まった。

民間人であった不二子さまが陛下に嫁がれてからの苦しい胸の内がリアルに語られる。

 

皇室と政治や諸外国との関係も具体的で勉強になるが、まるで軟禁生活であるとの思い、ほぼ自由がない(生まれながらにしてならまだしも、元々民間人であったことからその不自由さは想像に難くない)ことを考えれば、メンタル患者になっても当然だと思ってしまうような環境なのである。

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